
暮れ始めた空を背景にした煙突と宮造りの屋根は、両隣に迫るマンションに窮屈そうに追いやられているように見えた。
銭湯の煙突と屋根は、バス通りでもある正面の道路を渡った場所からでないと写真におさめることができない。
今回は国分寺の「桃の湯」さん。サウナの無い銭湯。そして国分寺市に残っている唯一の銭湯でもある。
正直、蒐集している「東京銭湯コレクションカード」が目当ての訪問ではある。在庫状況は事前情報で未確認ながらも、しっかりと箱に満タンに近い状態で売られていたそれを一枚確保。
今まで観測外であったサウナの無い銭湯へ初めて訪れたのは、春先の小金井市、「ぬくい湯」だった。これがなかなかに衝撃的で、そういった新鮮な銭湯体験が時々できるようになったのも「銭コレカード」のおかげであった。

それにしても桃の湯、たまに Twitter の銭湯好きのフォロワーさんの投稿で見かけるあの入り口が、結構交通量の多い国分寺街道の目の前だとは思わなかった。
どこにバイクを置いたらいいんだろうと、細い道を折れて裏側へも回ってみたが、入り口に辿り着けるのは正面しかなかく、2度通り過ぎて銭湯周辺をグルグルと走り回ってしまう。
ちょっと乗り上がるにはどうなんだろう、という10 センチほどのコンクリの段差を乗り越えてなんとかバイクを駐輪できた。
自販機の横に併設のコインランドリーの看板もあったので、店の右手か左手に駐輪スペースと一緒にあるのかと思えば、正面がコインランドリーで、それを通り抜けた先が銭湯の玄関だった。
下駄箱からして古めかしい。ソファとテレビ、コンビニコミックなどの置かれた休憩ロビーでは地元常連らしき二人のおじいちゃんが世間話をしている。

正面のポスター、「江戸のしぐさ 昭和のぬくもり 平成のふれあいを 銭湯で」とある。いいコピーだ。
シンプルな脱衣所にはレトロな大型クーラーとベンチ、レトロ体重計、壁には大村崑の「オロナミンC」のポスターが貼られている。大村崑、今調べたら 93 歳で存命だった(!)。水分補給の飲み物を買い忘れる。脱衣所内に自販機は無い。
男湯の脱衣所入り口の目隠しはシャワーカーテンで、それはぴったりとは閉じずに、隙間からロビーの先の道路と停めてある自分のバイクが見える・・。
外気浴スペースというのか、朽ちた縁側と庭があり、トイレは縁側に出て右にあった。確認してないけど「和式」に違いない。縁側の隅には使われていない灰皿スタンドが。
入り口から見て左側の壁には真っ暗な窓。これがかつてあったサウナ室だろう。
浴室へ入ると、やはりそのシンプルさに軽く面食らう。先の「ぬくい湯」の時と同じ感覚だ。購入したシャンプーで洗髪。カランの鏡はどれも曇っていて自分がよく見えない。
黄色い洗い桶は、「ケロリン」の文字がかなり薄れていた。何十万回と背中を流す過程でこうなるのか・・。
浴槽は正面に3つ並ぶ。いちばん広い中央の浴槽にジェット、左右はバイブラのようだ。縁はえんじ色で内側は群青色のタイル。
正面の壁は素焼きのレンガのような色の抽象的なレリーフ。このタイプは見たことがない。左右の白い壁にはアクセントでところどころにカモメの絵、夕陽などが描かれている。剥き出しの蛍光管、男湯と女湯の間の仕切り壁の上にある壁時計もレトロだ。
まずは右側の湯へ。深い!壁側にあの鉄格子、その中に何かの石が積まれており、カエルの置物の姿も。よく見るとカエルは子ガエルを背負っている。なんとなくシンプルに過ぎて殺伐にも見えるこの浴室の中で、このカエルちゃんだけにはほっこりさせられる。
うろ覚えで後で確認するのも忘れたが、脱衣所入り口横に「ガリウム鉱泉」の手書きの張り紙があったような気がする。この鉄格子の中の石ってこれなのでは・・。
既視感があり過去記事を手繰ってみると、今年の春に閉店した旗の台の「錦湯」にもこの鉄格子のガリウム石が浴槽に付いていた記憶。

それにしてもこのサ活も今年の話なのか・・1、2年前の出来事に思えるのだが。
単体で記事にしていなかったので、「湯活のススメ」さんの記事を参照。記事内の画像を見ると、錦湯にも確かに鉄格子付きの浴槽が。浴槽のカラーリングと作り、鏡やシャワーヘッドも似ている。同じ年代に建てられた銭湯なのだろう。
あの窮屈そうに奥まった場所へ追いやられたようなお店の佇まいも似ている。
錦湯にもあんな感じの枯れた縁側と庭があり、そこの灰皿スタンドで煙草も吸えた(確かとうの数年前から銭湯の店舗内喫煙は禁止されている筈だが)。そしてサウナ室は限界に近い状態で壁や床の木材が朽ちていた・・。
同じ匂い。不謹慎な話、桃の湯さんもそんなに長くはないのかも・・。もう一度この銭湯に入りに来るとすれば、閉店が決まったお別れの時だろうか。
話が逸れた。そのガリウム鉱石風呂(なのかは分からないけど。そうだとしたら長年のあの鉄格子風呂の謎が解けた。ただの飾りではなかった)は深さが1メートル近くはあるようで、内側の段に座れば半身浴にもちょうど良い感じ。この作りがラドンとかラジウム風呂に向いたそれであるから、やっぱり「鉄格子 = ガリウム鉱石温泉」なのだろう。いや、分からないけど(調べろよ)。
※ 追記:銭湯コレクションカードの裏面に「ガリウム温浴泉」と記載ありました
結局、この深い鉄格子風呂がこの日いちばんのお気に入りとなって、冷シャワーの交互浴4セットの最初と最後に浸かる。そうだ、薪なんだよな・・お湯は薪沸かし。
湯温はどれも同じで体感 41 ℃ くらいの中温。真ん中の浴槽の水温計では 46 ℃ を差していたが、言うまでもなく壊れているものかと。
シャワーブースが2つ。左側のシャワーの横にその廃墟然としたスチームサウナが。入り口上のこれまた壊れているであろう室温計の針は 40 ℃ 付近を差し示している。
立て付けできちんと閉まらなくなっている入り口の扉をそっと開けて覗いてみる。レンガの壁と座席。定員は5人・・6人くらいか。
このスチームサウナが稼働していれば国分寺市唯一のサウナでもあったのだが・・ていうか、国分寺にサウナ早よ・・国立にも立川にもあるのに何で特快駅の国分寺に無いんだ。。
シャワー正面のタイルには桃の花か知らないけれど、この浴室内で最も色彩豊かな赤青ピンクの水彩調の花の絵が。もうちょっと水が冷たければ・・と思うも、国分寺は水、水質がいいのである。2セット目の後に右側のシャワーも試そうとしたが、そちらはシャワーヘッドも蛇口も撤去されていた。
2セット目は中央のジェットバス付きのメイン浴槽からの冷シャワー浴。2つあるジェットは上に左右2つ、下の真ん中に一つの3点ジェットで、左側は下の噴出口が、右側のは上の噴出口が故障しているようだった。この手の銭湯あるあるである。
3セット目、左側のバイブラ湯の浴槽からシャワー浴した後に休憩。カランの椅子や浴槽の縁に腰掛けてもよかったが、ここはあそこしかないだろう。そう、お勝手口というか非常扉?前の段差である。
誰もいない浴室でパチン・・OFF。フリーズ・・機能停止。。
唐突に思い出したが、国分寺にかつてあった、村上春樹が若い頃にやっていたジャズバーの入っていた建物には仕事で毎週のように通っていたことがある。

昨今のバラエティ豊かな銭湯とは異なり、やるべき事が決まりきっているので、ものの 30 分程度のサ活、もとい湯活になるかと思われたが、意外や濃密に1時間ちょっとを過ごしてしまった。
この間、私を含めてお客はのべ4人。私以外は皆おじいちゃんで、最後にすれ違ったお父さんは風呂にいる時間よりも出た後の脱衣所でノロノロと涼んだり髪を冷風機で乾かしたり着替えたりの時間の方が長いように見えた。
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